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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)1144号 判決

控訴人 木下一郎 外二名

被控訴人 吉成旭

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を左のとおり変更する。被控訴人は(一)控訴人木下一郎に対し、金二、三四四、五七〇円及び内金八四四、五七〇円に対する昭和四八年九月二日から、内金一、五〇〇、〇〇〇円に対する本判決確定日の翌日から(当審において請求減縮)、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を、(二)控訴人渡邊三津江に対し、金一、一九五、〇〇〇円(金一、〇〇五、〇〇〇円の誤記と認める。控訴人らの訴状、昭和四九年四月二五日付準備書面及び原審第六回口頭弁論調書参照)及びこれに対する昭和四八年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、(三)控訴人木下勝夫に対し、金一〇、九四一、四五三円(当審において請求減縮)及びこれに対する昭和四八年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、「控訴人木下一郎の本訴請求中、弁護士費用金一、五〇〇、〇〇〇円については、本判決確定日の翌日から遅延損害金の支払いを求める限度に減縮する。また控訴人木下勝夫は、自動車損害賠償責任保険から昭和四七年一二月一日金六七二、〇三〇円の、昭和五〇年七月七日金一、一七九、三七三円のそれぞれ損害填補を受けたので、同人の本訴請求を右各金額を控除した金一〇、九四一、四五三円の支払いを求める限度に減縮する。」と述べ、被控訴代理人において、「控訴人木下勝夫が自動車損害賠償責任保険からその主張のとおり損害填補を受けたことは認める。」と述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(証拠省略)

理由

一、本件事故の発生

昭和四六年八月二三日午前三時一〇分ころ、茨城県東茨城郡茨城町大字長岡字新田三、五二三番地の三七付近路上において、被控訴人の運転する大型貨物自動車(福島一せ四七七八号、以下本件貨物車という)が駐車中、控訴人木下一郎(以下、控訴人一郎という)が運転し、控訴人渡邊三津江、同木下勝夫(以下、控訴人三津江、同勝夫という)が同乗する普通乗用自動車(足立四の二〇二九号、以下本件乗用車という)が追突したことは当事者間に争いがない。

二、本件事故現場及び事故発生の状況

本件事故現場が駐車禁止場所に指定されていたことは当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第一号証、本件乗用車の写真であることに争いがない甲第二八号証の一ないし三、本件事故現場付近の写真であることに争いのない甲第三二号証の一ないし一三、乙第五号証の一ないし五、成立に争いのない乙第一ないし第三号証、原審における控訴人一郎本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三一号証、原審における控訴人一郎及び被控訴人各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、国道六号線水戸バイパス上にあり、中央分離帯により上下線に分れているが、当時上り車線は未完成であつたため、下り(東京方面から日立方面へ向う)車線の中央分離帯寄りの一車線(以下、中央分離帯寄りから左側に順次第一車線、第二車線、第三車線という)を上り(日立方面から東京方面に向う)車線として使用しており、その他の車線を下り車線として使用していた。なお本件事故現場付近道路はコンクリート舗装され平坦であるが、付近は非市街地で照明設備がなくて暗く、また本件事故当時は夜中であるうえ、霧があつて見通しは悪かつた。

被控訴人は、千葉県野田市に鋼材を届けた後の帰途、本件事故現場付近にさしかかつたのであるが、眠気を催したため、駐車禁止の標識に気付かず第三車線左端に本件貨物車を駐車させ、運転台の中で仮眠するため横になつてしばらくしたところ、本件事故が発生した。

他方、控訴人一郎は、長女控訴人三津江、四男同勝夫ら妻子五人を同乗させ茨城県白磯に海水浴に行くため本件乗用車を運転し、東京方面から日立方面に向つて時速四〇キロメートル近くで本件事故現場に至り、第三車線を進行中、約四九メートル前方に工事用の標識ランプが点滅しており、その前方に大型車が二、三台駐車しているのを認め、第二車線に寄つてこれを避けた後、再び第三車線に寄つたところ、約八・六メートル前方に本件貨物車が駐車しているのにはじめて気付き、急遽右に転把して衝突を避けようとしたが及ばず、本件貨物車の右後部に本件乗用車の左側面を衝突させた。なお控訴人一郎は、本件事故現場付近にある駐車禁止の標識は意識していなかつた。

以上の事実が認められ、原審における控訴人一郎本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲証拠と照合すると容易に信用できず、他に右認定を左右する証拠はない。なお、被控訴人が本件貨物車を前記二、三台の大型車からどの程度の間隔をあけて駐車していたか、また本件貨物車が尾燈を点燈して駐車していたかについては前掲甲第三一号証、乙第二号証及び控訴人一郎本人尋問の結果と乙第一号証、同第三号証及び被控訴人本人尋問の結果との間に大きな喰い違いがあつて、そのいずれとも断定し難く、他に右の点を確認できる証拠はない。また、被控訴人は控訴人一郎が居眠り運転をしていた旨主張するけれども、右の事実を確認できる証拠はない。

三、被控訴人の責任及び双方の過失

被控訴人が本件貨物車を自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。そして、自動車が道路上に駐車している場合も自動車損害賠償保障法第三条所定の運行状態にあるものと解すべきところ、前記認定によれば、本件事故現場に本件貨物車が駐車していなかつたならば、本件乗用車がこれに衝突することはなかつたものと認められるので、この意味で被控訴人が本件貨物車を本件事故現場に駐車させたことと本件事故との間には因果関係があり、被控訴人は前記法条による責任を免れない。

被控訴人は前記法条但書の免責の抗弁を主張するけれども、道路左端とは言え道路上、しかも駐車禁止の場所に駐車することは、当時深夜で霧のため見通しの悪い状態であつたことを考えればなおさら、それは道路交通の安全を害するものであるから、被控訴人としてはかかる駐車を避け事故発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、駐車禁止の標識を見落し右注意義務を怠つたものであつて、被控訴人に過失があることはあきらかである。したがつて、被控訴人の免責の抗弁は理由がなく、また被控訴人は民法七〇九条による責任も免れない。

しかし、控訴人一郎としても、夜間霧のため見通しが悪かつたにもかかわらず、時速四〇キロメートル近くで本件乗用車を運転して本件事故現場に至り、前記認定のように二、三台の大型車が駐車しているのを認めたのであるから、さらにその前方に他の車輛が駐車している可能性も多分にあるので、第二車線から第三車線に戻る際には減速し、かつ前方を十分注視して進行すべきであるのにこれを怠り、右速度のまま漫然と進路変更をし、約八・六メートルの至近距離に接近して初めて本件貨物車を発見するなど、その過失は極めて重大といわなければならない。

そして、前方注視義務は道路交通上、最も基本的かつ最も重要な注意義務であつて、控訴人一郎が右注意義務を怠らなければ容易に本件事故発生を避け得たこと、さらに、控訴人一郎が第二車線から第三車線に進路変更を余儀なくされるような道路及び交通状況上の特別な事情があつたとも認められないこと、他方本件事故現場付近は幅員の広い道路であつて、被控訴人はその左端に駐車させたものであるから、後続車がその道路左端を避けて進行する限りはその進行の妨害とならないこと、本件事故現場は駐車禁止となつているが、当時その手前に大型車が二、三台駐車しており、そのため被控訴人が駐車禁止の標識に気付かなかつたこと、被控訴人が本件事故現場に駐車したのは、当時被控訴人が眠気を催し、危険を感じたという余儀ない事情もあること、その他前掲証拠によつて認められる本件諸般の事情を検討すると、前記のように本件貨物車が尾燈を点燈していたかどうか不明である点が被控訴人に不利に作用することを考慮に入れても、なお、その過失割合は控訴人一郎につき七程度、被控訴人につき三程度と認めるのが相当である。

四、控訴人らの傷害及び後遺症

成立に争いのない甲第四ないし第六号証、前記控訴人一郎本人尋問の結果によれば、同控訴人は本件事故により頭部、右眼部打撲等の傷害を受け、昭和四六年八月二三日から同年九月一五日まで二四日間入院し、翌一六日から同月二七日までの間七回通院して治療を受けたが、なお右眼下に長さ数センチメートルの傷痕、右手第五指末梢に不完全麻痺を残していることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

次に、成立に争いのない甲第一三ないし第一五号証、前記控訴人一郎本人尋問の結果により控訴人三津江の写真であると認められる甲第三三号証の一ないし三、右控訴人一郎本人尋問の結果によれば、控訴人三津江は、本件事故により頭部打撲、胸部挫傷、顔面、左肩、上腕、腋窩部裂傷の傷害を受け、昭和四六年八月二三日から同年九月八日まで一七日間入院し、同月九日から同月一八日までの間八回通院して治療を受けたが、なお顔面三ケ所及び左上肢に多数のケロイド状の瘢痕を残していることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

さらに、成立に争いのない甲第一八ないし第二三号証、前記控訴人一郎本人尋問の結果によれば、控訴人勝夫は本件事故の一年位前に脳腫瘍のため開頭術を受け、爾後の経過観察中に本件事故に遭遇したこと、同控訴人は本件事故により頭骨骨折、脳挫傷、顔面裂創、胸部、四肢擦過傷の傷害を受け、昭和四六年八月二三日から同年九月一五日まで及び同月一八日から同月二八日まで合計三五日間入院し、翌二九日及び同月三〇日の二回通院治療を受けたこと、同控訴人の現在の症状としては、顔面に長さ一五センチメートル一ケ所、七センチメートル三ケ所、五センチメートル二ケ所の傷痕、逆行性健忘症があるほか、てんかんを疑わせる脳波異常があり、投薬を続けながら年二回位脳波検査を受けているが、症状に変化がみられないこと、以上の事実が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

五、控訴人らに対する付添

前掲甲第四、第一三、第一九号証及び前記控訴人一郎本人尋問の結果によれば、控訴人らの前記入院期間中、控訴人一郎は昭和四六年八月二三日から同年九月六日まで一五日間、控訴人三津江は同年八月二六日から同年九月八日まで一四日間、控訴人勝夫は同年八月二三日から同年九月一五日まで二四日間、それぞれ付添を要する状態であつたこと、本件事故により控訴人一郎の妻訴外志津子及びその子訴外美佐子、同美智子も受傷し、控訴人一郎、同勝夫及び訴外志津子が山本医院に、控訴人三津江、訴外美佐子及び同美智子が林整形外科医院に、それぞれ入院し、山本医院には控訴人一郎の子である訴外次夫及び芳夫の二名が、また林整形外科医院には派出婦一名が、それぞれ付添つたこと、訴外志津子、同美佐子及び同美智子はいずれも昭和四六年九月一〇日ころ退院したこと、以上の事実が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

六、控訴人一郎に賠償すべき損害額

(一)  治療費、付添費、入院雑費

成立に争いのない甲第七、第八号証によれば、控訴人一郎は前記受傷の治療費として合計金五二、三七〇円を要したことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。そして、前記認定のような傷害の程度、入院、付添の実情からみて、控訴人一郎のための付添費として一日当り金一、〇〇〇円の一五日分合計金一五、〇〇〇円、入院雑費として一日当り金三〇〇円の二四日分合計金七、二〇〇円の各損害を認めるのが相当である。

以上の損害合計は金七四、五七〇円となるが、控訴人一郎には前記認定のような過失があるのでこれを斟酌し、右損害のうち同控訴人に賠償すべき損害額は金二二、三七一円と定めるのが相当である。

(二)  休業損害

前記控訴人一郎本人尋問及び弁論の全趣旨によれば、控訴人一郎は大正七年九月一七日生れで、本件事故当時合成樹脂加工業を営んでいたところ、本件事故による受傷のため昭和四六年八月二三日から同年九月二七日までの間休業のやむなきに至つたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

ところで、控訴人一郎は本件事故当時月収一五〇、〇〇〇円であつたと主張するが、前記控訴人一郎本人尋問の結果中、右主張に符合する部分は明確を欠き、たやすく採用できないものがあり、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。しかし、控訴人一郎は当裁判所に顕著な労働省の賃金構造基本統計調査の昭和四六年全産業・男子労働者・学歴計の平均給与額のうち五〇ないし五九才の年令階層の平均年収金一、四四六、九〇〇円と同程度の年収は少なくとも得ていたものと推認され、右認定を左右する証拠はないので、結局同控訴人の右休業期間三六日分の損害は金一四二、七〇七円と認められる。

そして、控訴人一郎には前記認定のような過失があるのでこれを斟酌し、右損害のうち同控訴人に賠償すべき損害額は金四二、八一二円と定めるのが相当である。

(三)  慰藉料

控訴人一郎の前記認定のような受傷の程度、入通院の状況、後遺症の程度、過失の態様、程度など本件諸般の事情を考慮すると、同控訴人に対する慰藉料額は金七五、〇〇〇円と定めるのが相当である。

(四)  車輛損害

前掲甲第二八号証の一ないし三、控訴人一郎本人尋問の結果によれば、本件乗用車は昭和四〇年式セドリツクライトバン一九〇〇で、控訴人一郎が昭和四二年七月ころ金四五〇、〇〇〇円位で購入したものであるが、右購入時すでに二〇、〇〇〇キロメートル程度走行していたこと、同控訴人は本件乗用車を購入後営業用及びレジヤー用として使用し、本件事故当時まで約三〇、〇〇〇キロメートル走行したが、本件事故により完全に破損し使用不能となつたこと、以上の事実が認められる。同控訴人は、本件乗用車の事故当時の価格が金三〇〇、〇〇〇円であつた旨主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はなく、右認定事実からみて、本件乗用車の当時の価格は金八〇、〇〇〇円程度にとどまるものと認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

したがつて、控訴人一郎の車輛損害は金八〇、〇〇〇円となるが、同控訴人には前記認定のような過失があるのでこれを斟酌し、右損害のうち同控訴人に賠償すべきものは金二四、〇〇〇円と定めるのが相当である。

(五)  合計額

以上を合計して、控訴人一郎に賠償すべき損害合計額は金一六四、一八三円となる。

七、控訴人三津江に賠償すべき損害額

(一)  治療費・付添費・入院雑費

成立に争いのない甲第一六、一七号証によると、控訴人三津江は前記受傷の治療費として合計金四五、八六〇円を要したことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。そして、前記認定のような傷害の程度、入院、付添の実情からみて、同控訴人分の付添費として一日当り金一、〇〇〇円の一四日分合計金一四、〇〇〇円、入院雑費として一日当り金三〇〇円の一七日分合計金五、一〇〇円の損害を認めるのが相当である。

以上の損害合計は金六四、九六〇円となるが、控訴人一郎の前記認定のような過失は、同人との身分関係当時の生活関係などからみて、いわゆる被害者側の過失としてその損害賠償算定に当りこれを斟酌するのが相当であるから、右損害のうち控訴人三津江に賠償すべきものは金一九、四八八円と定めるのが相当である。

なお、控訴人三津江は、皮膚移植費見積額金八〇〇、〇〇〇円の賠償を求めているけれども、それはまだ現実の損害とはいえないから、右請求は認めない。

(二)  慰藉料

前記控訴人一郎本人尋問の結果によれば、控訴人三津江は前記認定のような後遺症のため被控訴人から損害賠償を得次第皮膚移植手術をする予定であることが認められるが、右手術を受けてもどの程度控訴人三津江の症状が良くなるかについては、これを予測できる何らの証拠もない。

右認定の事情のほか控訴人三津江の受傷程度、入通院の状況、現在の後遺症の程度、被害者側である控訴人一郎の前記のような過失の態様、程度その他本件諸般の事情を考慮すると、控訴人三津江に対する慰藉料額は金四五〇、〇〇〇円と定めるのが相当である。

(三)  損害の填補

以上を合計すると控訴人三津江に賠償すべき損害合計額は金四六九、四八八円となるが、自動車損害賠償責任保険から同控訴人が金四七四、二八〇円の填補を受けたことは当事者間に争いがないので、結局右損害は全部填補されていることになる。

八、控訴人勝夫に賠償すべき損害額

(一)  治療費、付添費、入院雑費

成立に争いのない甲第二四、二五号証によると、控訴人勝夫は前記受傷の治療費として山本整形外科において金七六、二八〇円、市原病院において金二七、四五〇円を要したことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。同控訴人は右治療費として合計金一〇八、六九〇円を要した旨主張するが、右認定額以上の治療費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

そして、前記認定のような傷害の程度、入院、付添の実情からみて、同控訴人分の付添費として一日当り金一、〇〇〇円の二四日分合計金二四、〇〇〇円、入院雑費として一日当り金三〇〇円の三五日分合計金一〇、五〇〇円の損害を認めるのが相当である。

以上の損害合計は金一三八、二四〇円となるが、前記のとおりいわゆる被害者側に属する控訴人一郎に前記認定のような過失があるのでこれを斟酌し、右損害のうち控訴人勝夫に賠償すべきものは金四一、四七二円と定めるのが相当である。

(二)  逸失利益

成立に争いのない甲第一号証、前記控訴人一郎本人尋問の結果によれば、控訴人勝夫は昭和三一年三月一七日生れの男子で昭和四九年三月高等学校を卒業したが、前記認定のような後遺症のため就職に不安があつたので就職せず控訴人一郎の家業を手伝つていることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

右事実に控訴人勝夫の後遺症の現在の状況、程度、同控訴人の将来における教育、訓練による稼働能力回復の可能性その他本件諸般の事情を考慮すると、同控訴人は本件受傷による後遺症により後記稼働可能期間を通じて三割五分程度の労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。そして、同控訴人は高校卒業時の一八才から六三才まで四五年間稼働可能と考えられるので、その間の逸失利益の現価は、当裁判所に顕著な労働省の昭和四九年賃金構造基本統計調査の産業計、企業規模計、男子労働者、新高卒の全年令平均年収一、九五三、〇〇〇円を基礎としライプニツツ方式により中間利息を控除した金額を参考として金一二、一五〇、〇〇〇円程度と認めるのが相当である。

そして、前記のとおり被害者側に属する控訴人一郎に前記認定のような過失があるのでこれを斟酌し、右逸失利益のうち控訴人勝夫に賠償すべきものは金三、六五〇、〇〇〇円と定めるのが相当である。

(三)  慰藉料

控訴人勝夫の前記認定のような受傷程度、入通院の状況、後遺症の程度、被害者側に属する控訴人一郎の前記認定のような過失の態様、程度その他本件諸般の事情を考慮すると、控訴人勝夫に対する慰藉料額は金六五〇、〇〇〇円と定めるのが相当である。

(四)  差引合計額

以上を合計して、控訴人勝夫に賠償すべき損害合計額は金四、三四一、四七二円となるが、自動車損害賠償責任保険から同控訴人が金一、八五一、四〇三円の填補を受けたことは当事者間に争いがないので、結局同控訴人に賠償すべき損害残額は金二、四九〇、〇六九円となる。

九、弁護士費用

控訴人らが本訴追行を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著であり、弁論の全趣旨によれば、控訴人一郎はその費用として金一、五〇〇、〇〇〇円を支払う旨弁護士と約定した事実が認められるが、本件事案の内容訴訟経過、認容額等本件諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用の賠償相当額は金二五〇、〇〇〇円と定めるのが相当である。

一〇、結論

以上のとおりであるから、控訴人らの本訴請求は、被控訴人に対し、控訴人一郎が前記六、(五)と九において認めた金額の合計金四一四、一八三円及び内金一六四、一八三円に対する本件訴状が被控訴人に送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和四八年九月二日から、内金二五〇、〇〇〇円に対する本判決確定日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の、控訴人勝夫が前記八、(四)で認めた金二、四九〇、〇六九円及びこれに対する右昭和四八年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の、各支払いを求める限度においては正当であるから、これを認容すべきであるが、控訴人一郎、同勝夫のその余の請求及び控訴人三津江の請求はいずれも失当であるから棄却すべきである。原判決は、控訴人三津江に対しその請求を棄却し、控訴人一郎に対しては前記認定のとおりの金額を、同勝夫に対し前記認容すべき請求額を超える請求を認容しているものであるから、本件控訴はいずれも理由がない。

よつて、本件各控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 外山四郎 篠原幾馬 小田原満知子)

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